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「こんな豪華な部屋でなくても、出張なんだからあなたと一緒に安いツインでいい」と綾樹には言ったのだが、日ごろ頑張ってくれている礼だとして「ゆっくりするといい」と鍵を渡された。  その綾樹自身は、役員連中と共に数ランク下の部屋を取ったようだ。階下の部屋で役員連中と一緒に飲み明かしていたようで、深夜、桜井が飲み物を買いに1階まで下りたときに、フロント横のレストスペースで、若干ぐったりしている彼を見た。  顔も、浴衣からはだけた男らしい筋肉のついた胸板も、ほんのり桜色に染まっていて、いつもは怜悧な目元が、この日は少し潤んで野獣のような熱を秘めているように見えた。  目が合った瞬間に、その危険な香りを潜ませている男らしさに目を奪われた。  一気に跳ね上がる鼓動。綾樹と毎日顔を突き合わせているのに、恋心がまた大きくなる。  ときめきに震える心を誤魔化すように、桜井は綾樹に水のペットボトルを渡し、「明日寝坊しないでくださいね」とやんわり注意した。  まともに顔を合わせてしまえば、その視線に囚われてしまうから。  彼は「ありがとう。助かる」と言って、桜井の頭をくしゃりと撫で、その水を一気に煽った。  それだけで、桜井の胸が一気にときめいてしまう。 「社長、少し飲み過ぎでは?」 「これくらい大丈夫だよ。それに今日くらい、社長と呼ばなくていいぞ。祝い事で来てるんだから、羽目を外したらいい」     
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