1人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに私は、よく声を出しチャント(応援歌)をよく歌うゆっこと対照的に引っ込み思案であんまり声を出せないけど。できる限りの応援はしてる。ファンクラブに入って、毎年レプリカユニフォーム買って、支援の自動販売機で毎日ジュース買っていたし。
「で、でも、でも」
「でもじゃないわ。ああ、もう、でてって、帰って! 目障りよ! レッドカード!」
ゆっこはファールをおかした選手に審判がカードを差し出すような仕草をする。剣呑な面持ちで。こんな怖い顔を見たのははじめてだ。
「ゆっこ……」
得も言われぬ感情が湧き起こって、目から涙が溢れて、頬を伝って流れ落ちた。
(もう、やめよう)
なにかがぷっつりと切れるのを感じて。私は流れ落ちる涙をぬぐうことも忘れて、とぼとぼと歩き出して。ゆっこは知らん顔でブーイングに明け暮れる。
とぼとぼ、とぼとぼ、と歩く。
サッカーの観戦を始めたばかりのころ、楽しかった日々が思い出されて。新しい友達、ゆっこともスタジアムで出会って。
いい思い出がたくさん作れたし。これからも。そう思ったけれど。
とぼとぼ歩いて。スタジアムから出て。またとぼとぼ歩いて。その間にどうにか涙は止まった。
双方のサポーターがスタジアム周辺に溢れて歩いてる。試合の日はスタジアム周辺はサポーターで溢れて。そうでない人を見つけるのが難しいくらいだ。
ホワイトナイツのサポーターはほとんど浮かない顔をしてる。その中には、来年も応援するんだ、地獄の底までついていく、って言う人もいるけど。
ふと、振り返ってスタジアムを眺めて。ゆっこのあの顔を思い出して。また涙が溢れて。
「さよなら」
ぽそっとつぶやいたのにも気付かず。私はバス停向かって歩き出した。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!