緊張と緩和

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 完結まで揃っている漫画を買ったは良いものの、物語を終わらせるのが嫌で最終巻まで読み切れない経験というのはないだろうか。  俺の場合、御角燈という先輩がそれだ。  どんな人間で、どんな人柄で、どんな理由があってあんな真似をして、どんな目で皆に見られているのか、そんなことを知ってしまうと底が見えてしまう気がした。人ひとりの妄想や願望を満たせる他人なんてものは滅多にお目にかかれるものじゃない。それに情報が集積されると幻滅することの方が多いだろう。俺はあの時あの場で切り取られた瞬間だけで充分だったし、知らない人間の発する余計な批評は欲しくなかった。  しかし、だ。  御角燈のことともなると情報など黙っていても勝手に飛び込んでくるのだ。  クラスメイトたちは知り合いの先輩にあれやこれや情報をもらってきて、休み時間になると周りの連中にそれを自慢げに公開していた。  遠方からこの学校の男子寮へと飛び込んできた俺にはタダのひとりも友達ができていなかったが、耳をすましていればそこそこの事情通になってしまった。
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