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緊張と緩和
葬式の最中になぜか笑いがこみ上げてくる、なんていうシチュエーションは誰しも経験があるのではないだろうか。
葬式といわず学校で先生に怒られているとき、シンとしたバスの車内で揺られているとき、と置き換えてもいい。笑ってはだめだ笑ってはだめだと意識すればするほど、病的な笑動が湧き上がってきて肩を震わせてしまう。
どこか心にゆとりがあるからだろう。
ちなみに俺は中学のとき、皆が黙ってうつむいて机の上でかりかりと音を出すことに集中している期末試験の真っ最中にこの病に襲われた。我慢すればするほど堪えがたいものがあり、挙げ句に教室の後方からクックックックと気取った悪役のような笑いをこぼしてしまい以後あだ名を――いや、関係ない話はいいか。
この現象を緊張と緩和の法則という。
俺はこの法則を応用すれば男女間の色恋などにも通用するのじゃないかと思っている。
いや通用するのだろう。
タチの悪い男につきまとわれているヒロイン、そこに颯爽と助けに現れた主人公。ここから恋に発展するというのは、あらゆる物語の鉄板ネタだ。タチの悪い男は「緊張」で、主人公の助けは「緩和」に他ならない。
緊張と緩和は日常に溢れている。
今からまだ一ヶ月と経っていない入学式でのことだ。
新入生在校生父兄教職員と体育館に集まって厳粛に式が進行しているときだった。いたって平凡で、毎年四月になれば全国何千もの高校で執り行われる、どこにでも転がっている入学式。
「ただいまより大宮前高等学校入学式を執り行います――」
この全校生徒がパイプ椅子に座っているタイミングで、どこからか現れた生徒がいた。制服に身を包みながらも、たったひとりで立ち上がっていたその女子生徒はとても目立っていた。
すたすたすた、と。
その一挙手一投足が会場の視線を引き受けた。
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