0人が本棚に入れています
本棚に追加
Kino.Q(https://kinoq.theshop.jp/)の商品『自分だけの小さなお話ルーレット』(たくさんのカードから4枚のカードを引くと一行の物語になる)より、
「きのうの夜明けごろ ちいさいおうちで 思いやりの心を 冷凍庫に入れました」
という一行の物語を、ふくらませて、もう少し長い物語を作ってみました。
冷凍庫とわたし
昨日の夜明け頃、小さいおうちで、思いやりの心を、冷凍庫に入れました。
冷凍庫に入れた思いやりの心はこれで六つになりました。
でも今回の心は他のものとは違います。一昨日の夜、思わぬかたちで手に入ったものなのです。
その夜わたしは仕事で、町外れの洋館まで行っていました。仕事は予想よりも長引き、洋館を後にした時にはすでに、その日のバスが終わっていました。
仕方なくわたしは、歩いて帰ることにしました。
町の灯りは遠くに見えていたので、道に迷うことはありませんが、月もなく、周りは黒々とした木々に囲まれていたため、真っ暗でした。何かにぶつからないように、何かを踏まないように、転ばないように、気をつけながらゆっくりと歩きます。
長袖を着ていたせいか、すぐには気づきませんでしたが、ほんの少し、雨が降っているようでした。糸のような細い雨が時々頬に当たります。わたしは、仕事道具の入った小さな鞄を胸の前に抱えると、足を速めました。
風はなく、雨も音を発するほどの強さではなかったため、聞こえるのは自分の静かな足音だけでした。
でもある時、もう一つの音が聞こえてくることに気づきました。
最初は気のせいかと思いました。だって、こんな真夜中に林道を歩いている人なんて、いるわけがありません。夜は、森だって眠る時間なのですから。
でも、その音は少しずつ大きくなっていったのです。だからそれが、自分以外の足音だと認めざるを得なくなってしまいました。
わたしと同じように仕事で遅くなって、町へと帰る人なら、一緒に歩くのもいいかもしれません。でも、もし盗賊のような悪い人なら、どうしましょう。
どんどん大きくなる足音が恐くて、振り返ることもできません。いっそ雨がもっと強く降って、音も、わたしの輪郭も曖昧にしてくれたらいいのに。そんなことを思いながら歩きました。その時です。
最初のコメントを投稿しよう!