冷凍庫とわたし

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「そんな、えっと……でも、それでは奥様が濡れて……」 「気になさらないで。私はすぐに戻れますから。今日は本当にありがとう。出来上がるのは、七日後だったかしら?」 「はい、おそらく七日後です。美しい涙の結晶を持って、再び参ります」 「ありがとう。楽しみにしているわ」  そして奥様は洋館へ戻っていきました。  わたしは、握ったままの傘の柄が、とても暖かくなっているのに気づきました。右手をそっと離して開いてみると、手のひらの上に、まるで暖かい何かが置かれているように、確かな温度を感じたのです。最初は何も見えませんでしたが、何度か瞬きをすると、その暖かさは手のひらの中心に集まって、きらきらと光る小石のような塊になりました。  それはわたしが初めて見る、生まれたばかりの、思いやりの心でした。  いつの頃からでしょう。時々わたしには、思いやりの心が見えました。それはほとんどが、黒色や灰色で石のような形をした小さな塊です。町中のベンチにそっと置かれたままだったり、ゴミ箱から弾かれて道ばたに落ちていたりと、不遇な扱いを受けています。もしかしたら、思いやった相手に気づかれないまま、忘れ去られてしまったものなのかもしれません。  そうした報われない思いやりの心を見つけてしまうと、わたしは拾わずにいられないのです。  でも今宵は、生まれたばかりの思いやりの心に、初めて触れることができました。生まれたての思いやりの心は、こんなにもつやつやと、淡く輝く石だったことをわたしは初めて知りました。家に帰って電球の下で見たそれは、深い青色をして、手のひらで包み込むように握り、ぱっと開くと、きらきら光が瞬きます。表面上ではなく、石の深い深い部分から輝きが漏れてくるようでした。  さて、見とれてばかりではいられません。仕事をします。  わたしの仕事は涙を採取することです。
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