1人が本棚に入れています
本棚に追加
キツネと悪魔の話
昔々、ある森の奥深くには悪魔の館があり、
その悪魔はどんな願いでも叶えてくれると云われていました。
ある日、ひとりぼっちのキツネが悪魔の住む森にやって来ました。
暗い夜の森でぽつりぽつりと降り出た雨に、慌てて雨宿りする場所を探していると、
大きな石が積まれた廃墟を見つけました。
おそるおそる廃墟の門をくぐったキツネの目の前に、悪魔が現れました。
「ようこそキツネさん。君の望みは何んだい? 叶えてあげるよ」
キツネは悪魔に言いました。
「あなたが森の悪魔ですか?」
「そう言われているね」
悪魔は笑いました。
「悪魔さんは、どうして願いを叶えるなんて言うのですか?」
「誰かの願いを叶えるために私はあるからさ」
キツネは不思議に思いました。
「どうして、あなたは悪魔と呼ばれているのですか?」
「そう望まれたからさ」
「悪魔なんて望むやつはいませんよ」
悪魔は首を傾げて答えました。
「私は誰かの願いを叶えただけさ。そして望まれたから私はいるのさ」
キツネは悪魔の姿を上から下までジッと見て言いました。
「あなたは一体、何ですか?」
「人間は昔、私を神と呼んでいたね。神が何かによるよ」
「神様なのに知らないのですか?」
「神も悪魔も、人間がつけた名前だからね。
私は呼ばれたまま、そうであるだけさ。君がキツネと呼ばれてるのと同じ事だよ」
キツネは少し考えてから問いました。
「あなたは善ですか?それとも悪ですか?」
「君が望む方だよ。どちらでも同じさ」
「じゃあボクは、あなたを悪魔と呼びましょう」
悪魔は機嫌良く笑いました。
「なら私は悪魔さ。では改めて、君の願いは何だい? 叶えてあげるよ」
「ここで雨宿りをしたいのだけど、雨をしのげる場所が悪魔さんの足元しかないのです。
だから、あなたの側で休んでもいいですか?」
「もちろんさ、私は願いを叶える悪魔だからね」
キツネは大理石で作られた大きな像の足元で、冷たい雨をしのいで一晩を過ごしました。
『キツネと悪魔の話』完結
最初のコメントを投稿しよう!