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1.失われたイヤーピース
「はじめまして。あなたは何ていうお名前なの?」くりくりとした瞳に柔らかそうな赤毛。その時の俺からしたら、お姉さんとも言うべきくらい。
「あんどうれい、だよ」
「あんでぃ・れいね」
「ちがうよ、あんどうだよ」
お姉さんは公園で妹と二人きりだった俺と遊んでくれた。ブランコ、滑り台、シーソー、砂場。
「ねぇあんでぃ、これを持っていてほしいの」そう言ってお姉さんはペンダントを渡してきた。砂で汚れた手をズボンで擦って受け取った。青い大きな石の回りに細かい銀の装飾が施されていた。
「それなあに?」妹が手を伸ばしてきたので慌てて避けた。
「とても大切なもの。あんでぃにあげる。大事にしてくれる?」
「うん!」
「わたしもほしい!」
「じゃあ、あなたにはこれを」お姉さんは自分の髪留めを妹に渡した。
「わぁ、きれい!」はしゃぎながら髪に付けてとせがむ。お姉さんは優しく付けてあげた。
「あら、もうこんな時間。私行かないと。私また来るから。ぜったい来るから。そのときはまた遊んでくれるかしら」
「いいよ、あそんであげる」生意気な子どもの返答に、お姉さんはふふっと笑った。
「ありがと。じゃあ、それまでそれを大切にしてね。約束よ、あんでぃ」
そう言って彼女は帰っていった。僕達は次の日もその次の日もその公園で待った。しかし彼女はその後現れることはなかった。そのうち妹も僕も公園で待つことをしなくなった。今ではもう彼女の顔も朧気だ。だが夕日に背を向けて帰っていく彼女の後ろ姿は、今でもはっきり覚えている。
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