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夜の帳が下りてから幾分も経つというのに、街中は騒々しかった。祭囃子というわけではなく、経済活動の当然の帰結たる帰宅ラッシュでもない。物取りだ。
「ソフィア!ホシが目標地点に入った!」
「よし!これでチェックメイト!」
走り回る靴の音が幾重にも重なる中、石を削るような音が駈け抜けていく。その音に合わせて煉瓦で出来た民家の壁が欠け、黒い影が弾んでいく。しかしその影は徐ろにひたと立ち止まった。
「おしまいよ、名探偵!いいえ、殺人犯!」
その影の退路を断つようにソフィアが立ちはだかった。
「いやぁこれは刑事殿。見事なお手並みで」低音の返事がある。
「褒めたところで何も出ないわ名探偵!知恵比べは私達の勝ち。あなたはここまでよ」
黒い影に白い歯がにやりと笑った。
「何がおかしいのかしら」
「これは失礼を。あまりに思い通りに動いて下さったので、嬉しくなってしまいまして」
「─な、何ですって」
「ストレングス刑事、どうか私めを逮捕し、しっかりと見張っておいて頂きたい。それこそが重要なのです」
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