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僕がゾンビになってから、もう半月ほどにもなる。
鹿翅島に突然広がった「突然人間がゾンビ化する」と言う現象は、あっという間に島の人間と言う人間をゾンビに変え、生き残った人間の大半は逃げ出して行った。
だから今、島に残っているのは一部の物好きな人間と、ゾンビだけ。
でも、人間にもゾンビにも、それぞれ違う2種類が存在するようだった。
人間のうちの1種類目は、ゾンビハザードが起こったこの島での生活を楽しんでいる、元々の人間の世界では生きにくい人間たち。
彼らの多くは犯罪者や多重債務者で、島の所々に要塞のような住居を構えて暮らしている。
まだあの日から半月しかたっておらず、なおかつ人間の絶対数が少ないため、缶詰や災害時の備蓄にまだ余裕のある生活は、案外優雅であるようだった。
人間の2種類目、封鎖されているこの島へと物見遊山で不法に侵入する人間たち。
どうやらすでにコーディネーターが存在するらしく、肝試し程度の学生から、メディア関係の胡散臭いライターまで、この島は本当に封鎖されているのかと疑いたくなるほどの数の人間がウロウロしていた。
もちろん、決して少なくない割合でゾンビに襲われることもあるのだけど、それでも人間の好奇心は自らを死地へと赴かせることをやめないようだった。
その他に、時々巡回をする自衛隊のヘリコプターを見かけることもあるけど、彼らは決して島に着陸しようとはしない。
ヘリが島の上空を飛ぶたびに、その音につられてゾンビたちが大移動をするのが週末ごとの恒例行事だった。
ゾンビは普段、生前に自分の行っていた行動をトレースするようにして暮らして居る。
あるものは学校へ通い、あるものは電車に乗ろうとする。
でも、知性と言うものがほとんど消失し、大きな段差すらも越えられなくなった彼らは、自分の知っていた場所を昼夜問わずウロウロと徘徊しているだけだ。
視力はほとんど無く、その分特定のにおいには敏感で、特に人間のにおいは夕方のカレーのにおい以上に鼻孔と食欲と、そしてなぜだか幸せだった記憶を刺激する。
あの匂いを嗅いだゾンビは、もうほかの事を何も考えることが出来なくなるほど、人間の瑞々しい肌を、温かい血液を求め、殺到するのだ。
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