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鹿翅島の朝は早い。
電気の供給が絶たれているため、日の出とともに起きだして、日没とともに眠ると言う生活が、一番効率がいいからだ。
少なくとも、僕らレヴナントにとってはそうだと言う事だけれど。
人間は日が高く昇ってから行動を開始し、暗くなってからも乾電池の懐中電灯などを使って起きている事が多い。僕らのような生活をした方が効率がいいのは明らかなのだけど、自分の生活リズムと言うものを変えられずにいるようだった。
それから、ゾンビは元々視力がほとんど働かないため、昼夜関係なくごそごそと動いている。
どうやら睡眠も必要ではないらしいけど、彼らは彼らなりに生きていたころの生活をなぞるようにしている。
夜は、物音や人間の匂いを嗅ぎつけない限り、基本的にどこか物陰でじっとしていた。
今日もそんな息をひそめるような夜が明けた。
カーテンを開け放してある部屋に、明るい朝日が差し込む。
寒さも暑さもほとんど感じなくなった僕は掛布団を必要としないのだけれど、慣例的にと言うか、様式として掛けていた布団をはがし、体を起こした。
ベッドに腰掛け、ベッドサイドに置いてある読みかけの新書をずらすと、その下から現れたノートを開く。
ゆっくりとボールペンを持ち上げ、文字の書かれた最後の行に、今日の日付と自分の名前を書いた。
――中柱 樹
「なかばしら……いつき」
声に出して自分の名前を読み、昨日までに書いた文字と今日書いた文字を比べる。
大丈夫だ。僕はまだ知性を持っていて、ただ人を襲うゾンビにはなっていない。
ノートを閉じ、ベッドから起き上がった僕は、そのままゆっくりと階段を降り、洗面所に汲み置きしておいた水で顔を洗って歯を磨く。
ひげはレヴナント化して3日目くらいから伸びなくなっていた。
じゃぶじゃぶとすすいだタオルを良く絞り、顔についた水滴をふき取る。
ゾンビ化した皮膚はどうも治癒しないようなので、僕は生前のようにゴシゴシこすらずに、丁寧にふき取るようにしていた。
鏡で少し変色し始めている自分の皮膚を確認していると、背後から「ヴぁあぁ……」と言う唸り声が聞こえる。
廊下をのそりのそりとこちらへ近づいてくるのは、白く濁った眼と頬肉の無い骸骨そのものの顔をした2体のゾンビだった。
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