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この状況を笑われる意味が理解できず、潤はわずかな苛立ちとともに顔を上げた。
「私がどれだけ悩んでいるかも知らずに……」
藤田は穏やかな微笑みを崩さない。
「いいえ。ちゃんとわかっています」
「わかるはずありません。あなたみたいに優れた人には、劣っている人間のことなんて」
ぶつける相手を間違えていると知りながらも、抑え込んでいた気持ちを心にとどめておくことができない。まるでその感情に触発されたように、落ちてくる雪の量が増えはじめた。
降りそそぐ雪の中で藤田は寂しげに口元を緩め、「わかりますよ」と優しく言った。
「自分がここにふさわしい人間なのか、この街にいていいのか、僕もずっと悩んでいましたから」
「先生が?」
「はい」
藤田は短く返事をすると、「寒いし帰りましょうか」と勝手に話を終わらせてしまった。これ以上は立ち入るなと言いたげに、彼は降りしきる雪を見上げてコートのポケットに手を入れる。
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