第二章 雪泥鴻爪

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 この状況を笑われる意味が理解できず、潤はわずかな苛立ちとともに顔を上げた。 「私がどれだけ悩んでいるかも知らずに……」  藤田は穏やかな微笑みを崩さない。 「いいえ。ちゃんとわかっています」 「わかるはずありません。あなたみたいに優れた人には、劣っている人間のことなんて」  ぶつける相手を間違えていると知りながらも、抑え込んでいた気持ちを心にとどめておくことができない。まるでその感情に触発されたように、落ちてくる雪の量が増えはじめた。  降りそそぐ雪の中で藤田は寂しげに口元を緩め、「わかりますよ」と優しく言った。 「自分がここにふさわしい人間なのか、この街にいていいのか、僕もずっと悩んでいましたから」 「先生が?」 「はい」  藤田は短く返事をすると、「寒いし帰りましょうか」と勝手に話を終わらせてしまった。これ以上は立ち入るなと言いたげに、彼は降りしきる雪を見上げてコートのポケットに手を入れる。
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