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美しい――。その形容詞は自分のような女には縁がない、と潤は思った。それを与えられる人間はなにかが特出していなければならないような気がするのだ。
「お世辞が上手ですね……」
踊りだしそうな心をぐっと抑え込み、自戒の念も込めて呟く。
藤田が唇を結び、納得いかないといった表情で低く唸った。
その長身が心持ち傾いてきたように感じ、潤は反射的に身構える。頭を前に倒せばその胸に顔をうずめてしまえる距離で、彼は潤にだけ聴こえる静かな声を落とした。
「本当に綺麗です」
彼はそれ以上身体を寄せてはこない。
「先生……」
「今は先生じゃありません」
「……っ」
弾かれたように見上げれば、あまりにも柔らかなまなざしで見下ろされていた。
湧きあがる愉悦と羞恥に耐えられず、潤は思わず噴き出した。さきほどとは逆の立場に立たされた藤田が今度は怪訝そうな表情になる。それが余計におかしくて、それと同時になぜか寂しくて、潤は泣きそうになりながら笑った。
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