第二章 雪泥鴻爪

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 それから五分ほど走ると、見覚えのある大きな平屋に着いた。  家の前に車をつけた藤田は慣れた手つきでステアリングを切りながら後進させ、平屋を囲う生け垣の隣にある駐車場に車を停めた。  車を降り、垣根の切れ目から敷地内に入る。あの縁側から見えた庭はここから玄関を挟んだ向こう側にあるようだ。  敷地に入ってすぐ、藤田が家の外壁に沿って奥へ伸びる狭い通路に足を向けた。 「潤さんは少し待っていてください」 「え……」  困惑の声に気づいた藤田が振り返り、すまなそうに笑う。 「玄関は外から鍵を開けられない仕組みになっているので、僕は裏口から入ります」  コートのポケットから取り出した鍵を振りながら彼は言った。 「古い家なもので」  朗らかに笑う藤田につられて潤も笑顔で応えると、彼は真っ暗な通路をまるで見えているかのような足取りで進んでいった。いつもそうして家の裏口から入り、内側から玄関の鍵を開けるのだろう。
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