第二章 雪泥鴻爪

52/113
前へ
/391ページ
次へ
 取り残された潤は小さく息を吐き、橙色の外灯にぼんやりと照らされる玄関先へ向かった。  雪は止むことなく降りつづけている。手のひらをこすり合せながらしばらく待つと、戸の向こうでかちゃかちゃと音が鳴り、がらりと開けられた。  照明がつけられた玄関から顔を出した藤田に促され、潤は寒さを振り払うようにすばやく中に入った。気持ちを見透かしたか、藤田はふと表情を柔らかく崩す。 「寒いねえ」  まるで子供に話しかけるような口調に戸惑いつつ、潤は頷いた。自分の頬が林檎のように赤く染まっていないだろうかと気にしながら。  レッスンの日と同じ部屋に通された。  藤田はファンヒーターのスイッチを入れると、「待っていて」と言い残し部屋を出ていった。トートバッグを降ろした潤は、雪に少しだけ濡れた黒いノーカラーコートを脱いで待った。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2035人が本棚に入れています
本棚に追加