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しばらくして戻ってきた藤田の手には、二本のハンガーが握られている。
「掛けておきましょう」
そう言って大きな手のひらを見せる。
「すみません」
潤がおずおずとコートを差し出せば、そっと受け取った藤田はそれをハンガーに吊るして長押に掛けた。自身のチェスターコートも同じようにして隣に掛けると、彼はじっと見下ろしてきた。
「潤さん。疲れていませんか」
「い、いえ……」
「少し休みますか」
その言葉が耳に入った瞬間、潤は衝動的に首を左右に振った。せめてここにいるあいだは自分の意志を示したい。
「書道をしたいです。藤田先生の書道をもっと教えてください」
強い声を受けてわずかに目を見ひらいた藤田は、やがてその精悍な顔に愉快げな表情を浮かべると声を出して笑った。
「僕のでよければいくらでも。そうすればおのずと、あなた自身の書道が見えてくるかもしれません」
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