第二章 雪泥鴻爪

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 潤はわずかに首をかしげ、まぶたを下ろした。その書風に心惹かれた理由を考える。  雄大な字形、豪快な線質、そして晩年になるにつれて確固たるものになった独自性。そこに見えるのは、それを揮毫した人間の姿、その息遣い、揺るぎない想いである。  藤田の書に出会ったときに頭に浮かんだこととよく似ている。そう気づいて目をひらいた。  そこには、熱く優しい笑顔があった。  どくりと跳ねる鼓動。息切れしそうになりながら、潤はじっくりと選び取った言葉を丁寧に並べた。 「まっすぐで熱い心を持った人となりが想像できたから、だと思います。誰がなんと言おうと自分らしさを貫く、そんな気迫が感じられる字だったから……」  藤田が朗らかな笑みを返す。だがふとその目に真剣な色を宿し、語りはじめた。
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