第二章 雪泥鴻爪

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「彼の生涯は、徹頭徹尾、筋を通すために捧げ尽くされたといっても過言ではありません。秩序が乱れ、揺れ動く政界の中、その剛直な性格ゆえにしばしば権力者から敬遠され左遷されるなど、彼は変転極まりない生活を強いられました。しかし何者に振りまわされようとも、唐朝への変わらぬ忠誠心、正義感と情熱を持ち、愚直に己の信念を貫きとおした。そして最期は、唐朝に対する反乱軍によって殺されます」  最後の言葉に潤が息を呑むと、藤田はなだめるように優しい表情を浮かべる。 「書は人なり、という言葉があります。その壮絶な生き様が、墨を含んだ筆と紙の摩擦によって写し取られている。潤さんはそれを無意識のうちに感じ取ったのです」  そうしてひと呼吸置き、こう続けた。 「ご自身と重なるものを感じたから」
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