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思わぬ言葉に面食らい、潤は首を左右に振る。
「私は違います。まっすぐに自分を貫きとおすことなんて、できません」
「そうでしょうか」
「そうです。だって……」
膝の上できつく握りしめたこぶしが、ふいに大きな手のひらに閉じ込められた。ぬくもりがそこから全身を巡る。
逃げ場のない距離感の中で、その黒く深い瞳に囚われた。
「自分らしくありたい。あなたはそう願っているのではないですか。あなたの肉筆がそれを証明しているはずです」
自分の現状と理想の矛盾に悩み、それでも強く――。
半紙に写し取られた、墨黒の色をした意志が脳裏に浮かぶ。
「僕は、あなたの書が好きですよ」
どこか甘さを纏ったその声は、隠しきれない真意を白い繭に包んでいるようだった。もしそれが羽化するときが訪れたら、ゆらゆらと空を舞いながら、相思相愛という愚かな自惚れに毒された鱗粉を撒き散らすのかもしれない。
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