第二章 雪泥鴻爪

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 思わず目を閉じれば、ついに熱い吐息が重なった。 「んっ……はぁ、んん……」  唇が強くぶつかり合い、濡れて、深く吸われる。  不器用なキスだ、と潤は思った。夫しか知らない潤にはその善し悪しはわからないが、彼に初めてを捧げたときのただ与えられたとおりに享受すればよいだけの易しいキスでないことはわかった。  情熱、後悔、陶酔、恐怖、淫欲。重ねるたびに入り乱れる感情に翻弄され、たまらない気持ちが唇の隙間から喘ぎとなって溢れ出てしまう。むせ返るような荒々しい口づけに、酸素不足に陥りそうだった。 「だ、め……っ」  もはや抵抗の意味を持たない声を漏らせば、それがかえって男の劣情を煽ってしまったのかさらに激しく貪られる。たくましい腕に支えられる細い身体はほとんど横抱きに似た体勢にされ、そのまま後ろに押し倒されてしまいそうだ。
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