第二章 雪泥鴻爪

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 背中に回された片腕に強く抱かれ、後頭部を他方の手に鷲掴みにされる。まとめ髪に指が入り込み、崩される感覚が皮膚に伝わった。だが考える余裕などもう残されていない。乱されるまま、潤は地肌を掴む太い指の感触に酔いしれた。  ようやく離された唇が、今度は白のVネックニットから覗く首筋を這う。ときおり吐かれる荒い息と肌をなぞる濡れた舌、ふいに軽く立てられる歯が獣に首を噛み切られるさまを想像させる。  瞬間、ニットの中にある彼の手が背中のホックを外した。締めつけから解放され、とたんに心細くなった。  熱い手が脇腹を這い上がる。ぞわりと肌が粟立つのを自覚した潤は小さく悲鳴をあげ、藤田の肩を掴む手に力を込めた。すると彼は首から顔を離し、耳元に唇を寄せてきた。 「……僕が怖いですか」  脇腹から腰を撫で下ろしながら低く囁かれ、身体の芯が反応する。どくり、と疼き、どろり、と淫欲に満ちた粘液が奥から押し出される。
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