第二章 雪泥鴻爪

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 わずかに顔を離した藤田は、ほんのり色のついた輪を見つめながら肝心の先端を避けるようにしてねっとりと舐め上げていく。部屋の灯りが容赦なくその姿を細部まで映し出している。 ――ああっ、見ないで!  潤は心の中で叫んだ。  小ぶりなふくらみには少し不相応な、平均的とされるものより大きめな輪。色素が薄くぼんやりとしている。それがこれ以上ない至近距離で夫以外の男に見つめられ、弄ばれている。  濡れた舌はときおり、からかいを思わせる動きで突起の側面をこすり上げてくる。そのたびに潤は両腕の自由を奪われたまま大きく身をよじった。極度の羞恥の中、途切れることなく重ねられる刺激が快感を増幅させる。 「やっ、ん、んんっ……」  歯を食いしばり、漏れる声を喉の奥に押し込む。壊して――そう言っておきながらこうしていつもの癖で抵抗してしまうのは、これまでたったひとりの男にしか晒したことがなかった声の色や身体の反応をほかの男のために変える術など知らないからだ。
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