第二章 雪泥鴻爪

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 塞がれた口内で呼吸するたびに、ぐり、と腰を突き出される。その灼熱を早く受け入れようと無意識に脚がひらいていく。  その意図を理解したように藤田は背を丸め、潤の身体の中心にそれが当たるよう腰を入れた。  互いの色欲が布越しにこすれ合う。ときおりかすかに聞こえる湿った音は、すでにショーツまで染み出している愛液のしわざ。  彼のズボンを汚してしまうかもしれない。そう心配したのも束の間、腰の下に入り込んできた手に力強く引き寄せられ、腹にぴたりと密着した鋭い感触に思考を奪われた。 「つめたっ……」 「ん?」  唐突な訴えに目を丸くする藤田に、潤は「ごめんなさい」と小さく呟き、互いの腹のあいだに手を入れた。 「ベ、ベルトが……」  留め金が肌に押しつけられて冷たい。  はっと俯いた藤田は腰を離し、「ごめん、気づかなくて」と言った。 「もうたまらなくて、つい……」  正直に白状する彼のすまなそうな苦笑が、どうしようもなく愛おしさを湧き立たせる。
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