第二章 雪泥鴻爪

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 潤はそれを追い求めるように、よろりと上体を起こした。その視線にただならぬ気配を感じたのか、藤田はすかさず潤の手首を掴んでその動きを制した。  目を見ひらいてその瞳を凝視した潤に、彼は悩ましげな息を漏らす。 「あなたに触られると、変になりそうだ」  熱に浮かされたようなその言葉は、もはや拒否の働きをもたない。  潤は小さく息を吸った。 「なら、触ります」 「……っ」  絶句する彼に合わせて膝立ちになり、そのたくましい胸板に自らすり寄る。曲線の隙間をぴたりと埋めるように、しなやかに背を反らして肌を密着させ、脇の下から滑り込ませた手を広い背中に回した。  ふたりを隔てる薄い布の中ではその分身がはっきりとした意志を主張してくるのに、彼の腕は抱き返してくれない。
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