第二章 雪泥鴻爪

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 腹の底に打ち寄せる炎の波が弾け、脳内で火花を散らす。  うねる腰を大きな手に固定された。極限へ向かい駆け上がっていく意識の中、しつこいほどの濃密な舌遣いに急き立てられ、奥がひときわ激しく収縮した。 「ああっ、んんん……っ」  腰が大きく跳ねたあと、ふっと脱力する。じゅわりと広がる甘い倦怠感の中で胎内が音を立てずに脈打つのを感じながら、潤は酸素を求めて荒い呼吸を繰り返した。  とろりと視線を下ろせば、顔を上げた藤田と目が合った。野生的な濃い眉の下にある鋭い雄の目が差し迫った感情を伝えてくる。切ない空気の中で視線を絡ませたまま、彼は上体を起こして下着に手をかけた。  そのとき、部屋の隅から鈍い振動音が聞こえた。  眉をひそめてさらに鋭くなった彼の視線は潤の頭上を越え、ある一点で止まる。壁際に置いたトートバッグ。その中でスマートフォンが着信を知らせている。
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