第二章 雪泥鴻爪

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 外に出ると、雪はすっかり止んでいた。  内から玄関に鍵をかけ家の奥に消えた藤田を待つあいだ、潤は誰かに見られているのではないかと疑念を抱きながら周囲の闇を凝視した。  外壁の通路から姿を現した藤田に促され、駐車場に入り車に乗った。エンジンが唸り、シートベルトを締めると、もうどこにも逃げられないのだと痛感した。  道路に出た車は薄く積もった雪をタイヤで踏みつぶしながら走る。やがて雪は解け、どろどろとしたぬかるみができるだろう。はじめからそこに雪などなかったかのように、濁った色を広げるだろう。  心も、身体も、なにもかもが中途半端で、結局どこへ向かうこともできない自分が滑稽でたまらない。このまま家に帰るのが怖い。だが藤田に助けを求めることもできない。込み上げる感情を我慢するのはひどく苦しい。
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