第三章 一日千秋

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 クリスマスという煌びやかな言葉の響きに浮き立つ余裕もなく、年末年始が慌ただしく過ぎ、ようやく息をつく暇が与えられたかと思えばすでに一月も後半に差しかかっていた。  県立がんセンターの三階にある緩和ケア病棟の一室。あたたかみのある木目調の広い部屋を窓際へ進み、レースカーテンをそっと開けた潤は目前に広がる明るい雪景色を眺めて微笑んだ。 「今日はよいお天気ですね」  語りかけるように言い、振り返ると、ひとりベッドに横たわる社長が返事をするかわりに射し込む日光に視線をやり、眩しそうに目を細めた。 「……誠二郎は」  その短い質問には、「誠二郎の様子は」、「仕事ぶりは」など様々な意味が込められている。  潤はベッドわきにあるソファに腰かけ、笑みを向けた。 「しっかりやってくれています。仲居さんたちの話だと、もの言いや態度に自信が表れてきてずいぶん頼もしくなったそうですよ。以前より顔色もよくなって、野島屋の若旦那としての生活にすっかり慣れたのだと思います」  ゆっくりと目をそらした社長は天井を見つめ、まぶたを下ろし、納得したように一度だけ小さく頷いた。
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