第三章 一日千秋

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 正面にある障子を開ければ、八畳の居間に配置されたこたつとテレビと石油ストーブが目に入る。バッグを置いてこたつの電源を入れると、テレビ台の収納引き出しを開けてマッチを取り出し、ストーブの前に歩み寄り膝を下ろした。  金網を引き上げて手前にひらく。火力調節ダイヤルを点火位置まで回し、マッチに火をつけたら、燃焼筒つまみを持ち上げて隙間から点火する。つまみを持って左右に数回動かし、燃焼筒のすわりを確かめてから金網を閉めた。  筒が下から少しずつ赤くなるのを見届けると、潤は腰を上げた。  部屋奥にある続き間の襖を開ける。壁際に鏡台とたんす、幅狭な上着掛けを置いた簡素な寝室に足を踏み入れた。紺色のダウンジャケットを脱いでハンガーに掛けると、押入れに歩み寄り、襖を開けた。  仕切りの上に布団類、下には夫婦の少ない荷物を整理して置いてある。東京を離れるとき、服やバッグ、アクセサリーや雑貨などの多くを処分した。もともとたくさん持っているほうではなかったが、それでもいざ最小限に減らすとなると不必要なものの多さに驚いた。
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