第三章 一日千秋

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『明日、東京へ行きます。』  目に飛び込んできた文字列に、潤は深く息を吐き出した。  短いメッセージの中には、最寄り駅を十三時三十五分に出発する電車に乗ると示されている。途中の駅で新幹線に乗り換えるのだろう。  一緒に行きましょう、とは書かれていない。だが出発時刻を知らせてきたところになにかしらの意図は感じる。  この瞬間を待ち望んでいた。メッセージをひらく瞬間、自身の置かれた環境をすべて忘れて藤田だけを想い、焦燥感にまみれ、あの夜の続きを想像せずにはいられなかった。そのような瞬間を味わえただけで充分だ、と心に言い聞かせる。  潤は返信欄に『私は行けません』と入力した。送信せず、そのひとことをぼんやりと眺める。行けるはずがない。行けるはずがないのだ。
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