第三章 一日千秋

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 しかしふと思い立ち、入力した文字をひとつずつ消していった。目の前にある自分の書に目をやってから、ふたたび画面に視線を落とした。 『多寳塔碑を臨書しています。でも思うように書けません。どうすればいいですか?』  そう入力しなおし、送信した。藤田のメッセージの内容を無視しているが、今もっとも彼に伝えたいことはそれだった。  ふと部屋の中の明るさが頼りなくなった。空に雲がかかったのか、窓から射し込む陽の光が弱くなったのだ。潤はこたつから身を引いて立ち上がり、照明の引き紐を引いて電気をつけた。  こたつに入り、しばらくじっとして待つも返信はない。唐突すぎたかもしれない。気が急いて、しかしそれを紛らわす術もなく、臨書の続きをすることにした。
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