第三章 一日千秋

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 法帖の筆跡を熟視し、書く。そのあいだも心臓は内側から胸を殴ってくる。ひと文字書き終えるたびにテーブルの端のスマートフォンを気にしつつ、手を動かす。  メッセージを知らせる短い振動が鋭く響いた。びくりと肩が震え、紙を滑る筆にそれが伝わり線が歪んだ。しかし手を止めずに四文字しっかりと書き終えてから、潤は静かに筆を置いた。  スマートフォンを掴み、送信者が藤田であることを確認する。ひとつ息を吐いてから、おそるおそるメッセージをひらいた。 「……ん?」  画面に映し出されたのは不可解な文章だった。 『点は墜石の如く、画は夏雲の如く、鉤は屈金の如く、戈は発弩の如し』  どう返信すべきか考えていると、続けてふたつの文章が表示された。
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