第三章 一日千秋

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 スマートフォンを手放し、書を新聞紙の上にさっと置いた潤は新しい半紙を用意した。意味がわからずとも印象的な言葉だと思った『宿命潛悟』を、藤田の教えを反芻しながらもう一度書いてみようと思った。 「今だけ、自由」  呟き、筆を取った。  この白い紙は、なにをしても誰にも咎められない、誰にも知られない、自分だけの場所。小さな、しかし無限に広がる想いの集結点。そう思うと根拠のない自信がみなぎってくる。  筆に墨をたっぷりと含ませる。腕を構えると、紙背まで気を貫くような気持ちで一画目の点を打った。その勢いを止めずに、二画目、三画目、強い心のまま筆を押し込む。  書きながら気持ちが溢れてくる。 ――もっと激しく、もっと大きく。昔のように、太く堂々と……!
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