第一章 顔筋柳骨

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 玄関から見て左へ伸びる縁側に面した座敷に通された。  障子を透過する柔らかな白の外光が、十畳ほどの薄明るい和室に陰影をもたらしている。  畳の上には墨汚れ対策であろうイグサ風の上敷きが敷かれ、そこに、横に四つ、それが三列、合わせて十二の書道机が整然と並ぶ。子供たちが正座をして書を習う光景が目に浮かぶようだ。最後列の後ろに空いているスペースは大きな紙を用いる際に使われるのだろう。  長押には師範免許状や賞状が額に入れて掛けられている。続き間の襖は閉められているが、それを取り払えば今よりもっとひらけた空間になるのかもしれない。  障子を閉めた藤田は、机の間を進み部屋の中央まで行くと、長い腕を上げて照明から垂れ下がる紐を引いた。まばたきをするように何度か点滅して灯りがつく。彼はそのまま部屋を横切り、隅に置かれた石油ファンヒーターに歩み寄るとスイッチを入れた。
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