第三章 一日千秋

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 一分も経たずに返信がきた。 『いいえ。美しいです。僕は好きですよ。』  潤は小さく噴き出した。 「また美しいって言った……」  呟き、書をじっと見下ろす。  どう見ても醜悪。藤田はこれのどこに魅力を感じたのか。そう思うと、直接その口から聞きたくなった。  電話してしまおうか。その甘えを胸の奥に押しとどめ、返信を打つ。 『嬉しい。ありがとうございます。やっぱり藤田先生は褒めるのが上手です。』  画面上に連なる互いのメッセージにその文が追加されて数秒後。画面が通話着信時のそれに変わり、スマートフォンが鈍い機械音とともに振動しはじめた。  どくり、と心臓が強く鳴った。息を呑む。  黒い画面に表示された“藤田千秋先生”の文字。掌中で唸りつづける端末。続けざまに激しく打ち鳴らす鼓動の中、潤は無意識に部屋を見まわしてから、かすかに震える細い指で“通話”に触れた。
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