第三章 一日千秋

29/112
前へ
/391ページ
次へ
「やだ、恥ずかしいです」 『どうして』 「だって、いつも同じような服装」 『そのほうが僕は想像しやすい』 「……じゃあ昭俊さんは」 『今日は黒の作務衣です』  引き締まった黒はきっと彼によく似合うのだろう。潤は広い肩を覆う濃い色を思い浮かべた。  藤田からの問いは続く。 『今はどちらで書道を?』 「自宅です」 『机の前に正座して、それともテーブルで椅子に座って』 「こたつに入って、正座しています」 『いいですね、こたつ。暖かそうだ』 「はい。でも背中が寒いのでストーブもつけました」 『ふふ、そうですか。では楽な姿勢に座り直してください』 「え、あ、はい……」  言われたとおり、膝を崩して横座りになった。部屋にひとりきりだというのに、藤田の視線がすぐ近くにあるかのように錯覚してしまう。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2035人が本棚に入れています
本棚に追加