第三章 一日千秋

31/112
前へ
/391ページ
次へ
 ふいに素肌を這いまわる高い鼻が想像され、あの夜の、胸の先端に注がれた強い視線を思い出さずにはいられなかった。急激に襲ってきた羞恥心に、思わず胸のふくらみにこぶしを押しつける。  いったん引きずり出された未遂の記憶は淫靡な期待を暴走させる。秘めた洞穴で繰り返される高鳴りは止むことなく、奥に痛いほどの疼きを広げる。そこを彼に押しひらかれるのを待ち望むように。  潤は想像する。黒い作務衣に隠された厚い胸板、引き締まった腹筋、下着の奥で欲望を主張する屹立。やがて覆いかぶさってくる重みと、体内にねじ込まれる硬さ……。脳内で繰り広げられる妙に現実味のある錯覚に押されて身体は後ろに傾き、潤は仰向けに倒れた。 「んっ」 『……どうかしましたか』  訝しげな声で問われた。 「あ、あの、今ちょっと、寝転んで……」 『そうですか。では僕も……』  言葉の最後がかすかに揺れ、一瞬の空白のあとに長い吐息が聞こえた。手脚を伸ばしリラックスした様子で天井を見上げる彼の姿が目に浮かぶ。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2035人が本棚に入れています
本棚に追加