第三章 一日千秋

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 下半身を包むこたつ布団の優しい熱の中、目を閉じ、意図せず上がる息を抑えながら右耳に流れてくる低い囁きに聴き入る。 『あなたは僕の隣に寝ている? それとも上に乗っている?』 「う、上なんてそんな……隣でいいです」 『ふうん、そう』  少しだけ意地悪な返事。そして彼は言う。 『あなたの肩を抱いて引き寄せて、上に乗せてしまおうか』 「……こたつの中ではそんなことできません」 『そうか、困ったな。身体が触れているのに身動きがとれないのはつらい』  その穏やかな言葉の奥底には熱欲に冒された激情が渦巻いているようで、潤を淫らな思考に駆り立てていく。想像の中の藤田が隣で悩ましげな苦笑を浮かべた。  潤は熱いため息を漏らした。収まらないもどかしさから逃れるため、静かにスマートフォンを左手に持ち替えると、右手をゆっくりと身体の中心に這わせた。胸の奥に貼りついている自戒と恥じらいを放棄したのだ。
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