第三章 一日千秋

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 電話の向こうで耳を澄ませているかもしれない彼に気配で悟られないよう、息をひそめ、ジーンズのボタンを外しにかかる。これまで片手で脱いだことなど当然ない。生地を少々乱暴に引っ張りながらどうにか外した。  ファスナーを下げると、指が薄手の素材に触れた。ゴムも縫い目もない伸縮性のあるショーツは肌に心地よく沿い、負担がない。この一ヶ月、洒落気や色気よりもいかにストレスなく生活するかを重視してきた結果、繊細なレースショーツの出番はすっかり減った。 『潤さん』 「……はい」  返事をしつつも意識はすでに快感を求めて解離しはじめている。 『もう出ませんか。狭いところから』 「え?」 『こたつ』 「あ……」  そういえば、共有している想像の中ではふたり並んで限られた空間に身を寄せ合っているのだった。自分だけの妄想ではとっくに舞台は藤田宅のあの和室に移り、息を荒げる彼に組み敷かれている。
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