第三章 一日千秋

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『ああ……』  喘ぎにも似た返事のあと、「大丈夫ですか」とかすれた声に問われた。 「はい……。昭俊さんは」 『うん。しかし作務衣が大変なことに……ああ、いや、なんでもありません』  困惑を孕んだ笑いまじりの声にその光景を想像させられ、意図せず頬が火照る。ふと自分の下半身を見下ろせば、飛び散った愛液で濡れる黒い茂みと白い内ももが目に入る。  静かにかぶりを振った潤は、ぐったりとした重力に負けそうな上体をなんとか起こし、部屋のどこかにあるはずのティッシュ箱を探すため辺りを見まわした。  それとほぼ同時だった。からからと玄関の引き戸を開ける音がしたのは。  その気配ですぐにわかる。この時間に帰ってくることなどないはずなのに、なぜ――。  思うが早いか、廊下を踏みしめる音とともに障子がすっとひらかれた。  動かない身体。思考も停止していた。
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