第三章 一日千秋

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 黒いスーツに藍の法被を羽織った姿がそこに現れた。 「じゅ、ん」  誠二郎の冷静なまなざしが、きつく閉じた素脚に落とされた。その静かな視線は太ももに上がり付け根の中心に注がれる。  あられもない妻の姿を目の当たりにして一瞬大きくひらかれたその目は、次の瞬間には凍てついたように動かなくなった。 「なんだ……ずいぶんと大胆だね」  その低い声に醜態を咎められているようで背中にひやりとしたものが走る。潤はそばに脱ぎ捨ててあるジーンズを震える手で掴むと、膝を曲げて縮こまる脚をそれで隠そうとした。  わずかに顔をしかめた誠二郎がみしみしと畳を鳴らし足早に歩み寄ってくる。彼は羞恥と恐怖におののく潤の手からジーンズを奪い取り、乱暴に投げ落とした。  ちょうどその下にあったスマートフォンが覆い隠されたが、誠二郎はそれが通話中になっていることに気づいていないのか、それともスマートフォンなど見えてすらいないのか、その視線は変わらずただ一点を目指している。彼は潤の正面に膝を落とした。
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