第三章 一日千秋

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 潤は押し黙った。あなたのことを考えていた、と嘘をついてしまえばいい。しかし、繋がったままであろう電話の向こうに潜む彼の存在がそれを阻む。彼には聞かれたくない、と祈るような気持ちで夫の無感情な瞳を見返す。 「答えられないということは、俺以外の誰かってことだよな」 「……っ」 「誰だろうね」  わずかに口元を歪ませて言った誠二郎は、視界の端になにかを捉えたのかふいに視線を横にそらした。 「……やっぱりこいつか」  小さな呟きとともにふたたび目が合った直後、夫の手のひらが目前に迫った。思わず顔をそらすと、骨ばった指に首筋をなぞられた。その冷たさに、ひっ、と息を吸うと、その指は顎を撫で上げ、震える唇を割って口内に侵入してきた。
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