第三章 一日千秋

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 それを引き合いに出されたら、もうなにも言い返すことはできない。しかしあまりに心外だった。喉がひくつき、一瞬にして視界を覆った涙が目尻からこめかみを伝っていく。 ――わかってる。そんなこと、わかってるのに。  声にならない気持ちは大粒のしずくとなり、次々に溢れて流れ、耳を濡らす。  義父を大切に想い、無力なりに自分ができることを最後までしようと心に決めて今までやってきた。その行動に嘘はない。だが見下ろしてくる瞳はすべてを否定的に捉えようとしている。  押し寄せる哀しみとともに、潤は震える唇をひらいた。 「私、お父様のことは……忙しい誠二郎さんと女将に代わって、私がなんとか力になりたいと思って……少しでも、気持ちに寄り添えたらと……」
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