第三章 一日千秋

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「ひっ……や、あ……」  素肌に達する湿った筆の感触。ず、ず、と押し下げられるそれが陰部に隠された肉芽にかすかな振動を与える。蹂躙されていく。このままでは黒々と光るその筆にすべてを覆い尽くされる。全身が拒絶反応を示して震え上がった。 「いやあっ! もうやめて……っ、やめてぇっ……」 「うるさい!」  叫んだ誠二郎が股から抜いた筆を思いきり振り上げた。怒りか、その手が震えている。だが彼はそれを潤に向かって振り下ろすことなく、邪魔者を振り払うように横へと放り投げた。土壁に激しく叩きつけられたそれは畳の上にぱたりと落ちて動かなくなった。  上体を引いた誠二郎が法被とスーツの上着を一気に脱ぎ捨てながら鋭い視線を送ってくる。その目には憎悪すら見え隠れする。  潤はこれから行われることを確信し、戦慄した。しかし逃げようとすれば次はなにをされるかわからない。今はただ身体を丸め、怯えることしかできない。
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