第三章 一日千秋

63/112
前へ
/391ページ
次へ
「俺じゃ足りないのかっ……」  誠二郎が息を乱しながら悩ましげな声をあげた。 「足りないか! 俺は!」  同じことをもう一度叫ぶと、潤いの足りない壁の内側を一心不乱にかき乱す。 「あ……うっ、う……」  潤は突かれるごとに嬌声とはほど遠い呻き声を漏らした。肌に冷や汗が滲むのを感じる。  自分の上で男が腰を振っている。精を吐き出せればほかのことはどうでもいいと言わんばかりに。身体は向き合っていても、互いのことなど見ていない。もはや情の欠落したその行為は、愛し合う夫婦のものではなかった。  なぜこのようなことになってしまったのだろう。なぜ、こんなふうに手を縛られて、一方的に与えられる欲望をまるで意志を持たない人形のように受け入れなければならないのだろう。渦巻く憎悪を一身に受けながら、潤は失意の中で自身に問うた。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2035人が本棚に入れています
本棚に追加