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「せめて、社長……社長の……」
最期を見届けさせてほしい――そう言おうとしたとき、女将の横顔が一瞬だけ曇りを帯びた。しかし彼女はすぐに眉をつり上げ、背筋を伸ばす。
「必要ありません。あの人は、情けをかけられるほどの人間ではない」
突き放すようにはっきりと告げられ、潤は唇を薄くひらいたまま固まった。
「もうじきでしょう。あと数日……。葬儀だなんだと忙しくなる前に、あなたは身の振り方を決めなさい」
まるで他人の夫の話をするかのように淡々と発した女将は、「病院に戻ります」と静かに言い、小股でするすると廊下を歩いていく。だが数歩進んだところでふいに立ち止まった。
「無礼者がひとり、屋敷内に入ろうとしていたので帰っていただきました」
「え、それって……」
潤が彼の名を口にするのを遮るように、女将は歩みを再開した。
遠ざかる、鈍色の着物に引き締められた後ろ姿。座って休むことを禁じられたように厳かなその立ち姿は、心が折れてしまわないようかろうじて保たれているのだと無言で訴えてくる。
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