第三章 一日千秋

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「必要ありません。これ以上妻に余計なことはしないでください」  部外者を突き放すようにあえて冷たく言うと、哀しげな表情を返された。 「若旦那様のご負担を減らそうと思ってしてきたことですのに」 「…………」 「たまにはゆっくりと休まれたらいかがです。お疲れでしょう」 「その話し方、そろそろやめてくれませんか。わざとらしい」  うんざりして吐き捨てれば、女は誠二郎の心情に反してさわやかな笑みを浮かべた。 「なんだ、もう慣れたのかと思ったわ」 「はあ……美代子さん」 「ふふ、ごめんなさい。ちょっと意地悪しちゃった」  状況にそぐわない美代子の呑気な様子に苛立ちを覚え、だがこれは八つ当たりだと自覚し、誠二郎はうなだれた。 「勝手に上がってこないでくださいよ。ここは物置き小屋じゃない」 「だったらもう少し住まいらしくリフォームしたら? こんなところに閉じ込められて、潤ちゃんが気の毒よ」 「あなたには関係ないだろう」  誠二郎はふてくされて俯いたまま、美代子の相変わらずのお節介を非難した。
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