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三十分ほど経っただろうか。
「うん。それくらいでいいでしょう」
藤田の柔らかな声にほっとして手を止める。用意されていた布で墨についた水分を拭き取り、墨置きに立てかけた。
硯の海には、文字どおり墨の海ができあがっていた。
とても静かに、胸が昂っていく。
「なんだかとても、心地よい達成感がありますね」
自然とこぼれた吐息まじりの声は、意思とは裏腹に艶めいていた。それを隠すように潤は言葉を続ける。
「こちらでは子供たちも磨った墨を?」
藤田が首を小さく横に振った。
「親御さんたちはやはり字の上達を望まれて子供を預けてくださるので、基本的には練習時間を重視しています。ですが月に一度、自分で墨を磨ってから書くという時間を設けています。市販の墨液との違いをわからせるというよりは、墨の香りを感じたり、磨るときの感触を愉しんだり、これから書く文字の構想を練ったり、ゆっくりと静かな時間を過ごしてほしいという思いのほうが強いですね」
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