第三章 一日千秋

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 あの頃は、本当に夢中だった。逢瀬を重ねるごとに秘密の行為は濃厚になり、湿度を増した。  はち切れそうな分身を自分の手以外で最初に慰めたのは美代子の口だった。柔らかな唇、這いまわる濡れた舌に弄ばれ、あたたかな口内に吸い込まれた瞬間、はじめて得る感覚に少年は震えあがった。ときにはよつ這いで後ろを舐めまわされながら分身を扱かれ、狼狽と羞恥と快感に情けない声で喘いだ。  しかし、美代子は最後の一線を越えることを許さなかった。彼女の中に自身を沈めたくてたまらない誠二郎を優しくなだめ、ほとばしる欲をその口で受け止めた。  ふいに右脇の下にハンカチが入り込み、誠二郎はとっさに腹に力を入れた。脇腹を探る思わせぶりな拭き方が静寂を刺激し、淫靡な空気を呼び込む。  背後にあるのは過去の思い出ではなく、現実だ。長年遠ざけてきたそれが今、ふたたび手の届くところにある。振り向けばすぐ腕の中に閉じ込めてしまえるほど近くに。
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