第三章 一日千秋

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 潤みをたたえる沼を細い指がこねまわし、かすかな蜜音をふたつ発した。なまめかしい拷問に耐えきれなくなった誠二郎はとっさに美代子の腕を掴んだ。柔らかな肌に指が食い込むほど強く握るも、向けられるまなざしは意志を変える気配がない。 「美代子さん」  長い年月をかけて散り積もった虚しい情欲を静かな声で払い落とす。だがそれは、着物の裾を乱し痴態を晒したまま横たわる女の意味ありげなため息によっていとも簡単に目前に舞い上がり、鼻先をくすぐる。  また懐柔されるかもしれない。誠二郎は限りなく絶望に近い期待を抱いた。こうして身体を従わされ、叶わない夢の中に閉じ込められるのだ。  その複雑な心境すらお見通しなのだろう。気だるげに上体を起こした美代子が微笑を浮かべながら身を寄せてくる。うろたえて彼女の腕から手を離し身を引こうとすると、ふいに股間に伸ばされた手が有無を言わさず中心を鷲掴みにした。
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