第三章 一日千秋

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 悔恨を思わせる黒い瞳を濡れたまつげが覆う。彼女が目をしばたたくたび、大粒の涙がその頬を流れた。 「ごめんなさい……でも信じて」  まっすぐに見つめ、震え声で訴えてくる。 「最初から、誠二郎くんを見ていたのよ」  両頬を包んでくる手の慈悲深さに惑わされそうになる。 「ずっと、あなただけを見ているの……」  淡紅の唇が近づいてくる。かつて深紅に色づいていたそれが重なって見えた。  この女は嘘と色欲に取り憑かれた憐れな奴隷だ。そう思わなければ、正気を保っていられない。  女を突き放した。  肩を強く掴んで後ろを向かせ、女が振り向こうと首をひねるのを制するように前に押し込む。畳に伏せさせた女の腰を掴み上げて尻を突き出させると、下半身を覆い隠す着物を下に重なる二枚の薄布と一緒に力任せにまくり上げた。
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